
本サマリーにおける「動画広告市場」とは、インターネットを通して配信される動画広告に対し、広告主が支出する年間の広告費の総額を指す。市場規模はデバイス別(PC・スマートフォン・コネクテッドテレビ)に推計されるほか、フォーマット別の切り口として「縦型動画広告」、新たな取引形態として「運用型テレビCM」の需要が算出されている。
縦型動画広告とは、大手SNSや動画配信サイトで提供されている、縦型画面に最適化されたフォーマットの動画広告を指す。縦型動画コンテンツ面に配信されていても、画面が横長であるなど、フォーマットが縦型に最適化されていないものは含まない。運用型テレビCMとは、テレビ放送局(またはその系列会社等)が運営するオンラインプラットフォーム上で、インプレッション単位でテレビCMの買い付けから効果測定までが可能なテレビCM出稿サービスである。コネクテッドテレビ(CTV)とは、インターネットに接続されたテレビ端末を指し、その画面上で配信される動画広告が対象となる。
なお、今回の調査では縦型動画広告の定義が見直され、対象となる大手SNS広告フォーマットの範囲について、2024年に遡って再推計が行われている。
動画広告市場の拡大は、ユーザー・広告主・媒体社・テクノロジーの四つの変化が重なって生まれている。
・ユーザーの行動変化
縦型動画コンテンツの視聴が、若年層にとどまらず幅広い世代で定着した。あわせて、スマートフォンやコネクテッドテレビでの動画配信サービスの視聴習慣も広く根づいている。テレビの前に座って番組を観るという行動から、手元の端末や接続されたテレビで好きな動画を選んで観る行動へと、視聴のかたちそのものが変わりつつある。
・広告主側の需要動向
視聴行動の変化を受け、広告主はテレビCMから、OTT(インターネット経由の動画配信)やコネクテッドテレビ向けの広告へと予算をシフトさせている。動画広告は、インターネット広告全体のなかでも特に成長性が高い領域として位置づけられており、予算配分の見直しが続いている。
・媒体社側の動向
大手SNSや動画配信サイトは、縦型動画をはじめとする視聴環境と、広告主向けの出稿環境の双方を強化してきた。テレビ局側でも、デジタル広告に近い取引形態である運用型テレビCMの提供が始まり、テレビ広告のデジタル化が進みつつある。
・テクノロジーの動向
AI技術の普及により、クリエイティブ、広告フォーマット、ターゲティング、配信先デバイスの最適化と多様化が進んだ。AIを活用した広告クリエイティブ制作や広告配信技術の進歩により広告効果が高まり、広告主にとって動画広告はますます価値ある広告手法となりつつある。
サイバーエージェント/デジタルインファクトの共同調査によれば、2025年の国内動画広告市場規模は8,855億円、前年比122.2%と大きく拡大した。インターネット広告市場全体を上回る水準の成長である。
デバイス別では、スマートフォン向けが7,053億円(前年比122.7%)と市場全体の約8割を占め、動画広告市場の中心となっている。コネクテッドテレビ向けは1,295億円(前年比127%)と、市場全体を上回る高い伸びを示した。
フォーマット別にみると、縦型動画広告が2,049億円(前年比155.9%)と最も高い成長率を示し、スマートフォン向け動画広告全体の29.1%に達した。また、今回から新たに調査対象となった運用型テレビCMの市場規模は35億円である。
第一のトレンドは、縦型動画広告の定着である。大手広告主による出稿がさらに進み、SNSを中心とする動画広告における主要なフォーマットとして位置づけられた。短尺動画を次々と視聴するというユーザー行動の変化に適合した形式であり、広告主の投資も急速に拡大している。
第二に、コネクテッドテレビ向け広告の伸長である。テレビ視聴のデジタル化が進むなか、ターゲティングや効果測定が可能な広告手法として注目され、従来のテレビCMからのシフトが進んでいる。
第三に、運用型テレビCMという新しい取引形態の登場である。デジタル広告に類する売買の仕組みであり、少額からの出稿や高速なPDCA運用が可能な点が評価されている。市場規模はまだ小さいが、テレビ広告のデジタル化を象徴する領域として注目を集めている。
第一の課題は、フェイク動画広告への対応である。生成AIの普及により、著名人の顔や声を無断で使ったディープフェイク動画による、なりすまし投資詐欺の広告が拡大している。警察庁の確定値によれば、2025年のSNS型投資詐欺の認知件数は9,523件(前年比48.5%増)、被害額は1,288.0億円(同47.9%増)といずれも増加した。
被害の入口は広告である。当初の接触手段はバナー等広告が3,785件と最多で、ダイレクトメッセージ(3,549件)と合わせて全体の約8割を占める。バナー等広告の内訳ではYouTubeが1,024件と最も多く、前年から約20倍に急増した。警察庁は、著名人の画像や動画を無断で使用した広告や、「必ずもうかる」「元本保証」といった文言を含む広告を確認しており、動画において口の動きと声が合わない、日本語の表記が不自然といった特徴を挙げている。動画広告のフォーマットが高度化し、真偽を見た目で見分けることが難しくなるなかで、市場の信頼性を揺るがしかねない問題となっている。
対策も動き始めている。2026年5月には、自由民主党のディープフェイク対策合同プロジェクトチームが、SNS等の事業者に実効的な対処を求める法整備の検討を政府に提言した。提言には、規制対象となる広告の明確化と違法化、AIで作成したことを明示する仕組みの構築、削除通知から24時間以内の広告削除の義務化などが盛り込まれている。報道によれば、政府もSNS運営事業者を対象とした規制の導入を検討しており、広告主の身元確認の義務化が論点に挙がっているとされる。警察庁も、犯行に利用されたSNSアカウントの利用停止をプラットフォーム事業者に働きかけているほか、広告でかたられた著名人と連携した広報啓発を進めている。健全な広告流通をどう担保するかは、動画広告市場が成長を続けるうえでの前提条件となる。
第二に、生活者との接点が増え続けるなか、その属性や状況に寄り添い、健全なコミュニケーションを図ることが求められている。広告フォーマットや配信先が多様化するほど、ユーザーにとって心地よい接触をどう設計するかが問われる。
第三に、運用型テレビCMは市場規模がまだ小さく、取引の仕組みや効果測定の基準づくりはこれからの段階にある。デバイスやフォーマットをまたぐ効果の把握も、引き続き実務上の論点となる。
同調査によれば、国内動画広告市場は今後も高い成長を維持し、2026年には1兆437億円と1兆円を突破、2029年には1兆6,336億円に達する見込みである。
縦型動画広告は2026年に2,771億円、2029年には5,648億円へと拡大し、スマートフォン向け動画広告全体の42.5%を占める見通しである。
運用型テレビCMも2026年に60億円(前年比171.4%)、2029年には330億円規模まで成長すると予測されている。現時点ではサービスを提供する放送局や買い付け可能なテレビCMの量は限定的であるものの、ウェブ上で広告取引が完結し、高速でPDCAを回しながら最適な広告投資を実現できる点が評価されている。AIをはじめとする新しい技術を活かし、生活者と企業との心地よいコミュニケーション手段として受け入れられ続けることで、動画広告市場は引き続き高い水準の成長を継続すると考えられる。
出典:サイバーエージェント/デジタルインファクト共同調査「2025年 国内動画広告の市場調査」(2026年3月9日発表、調査時期:2025年11月〜2026年1月)。なお、課題で示したフェイク動画広告に関するデータは、警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」(2026年5月22日付。同年7月2日に啓発資料のグラフ表示に係る訂正あり)から引用している。政策動向は自由民主党の公表資料および報道(2026年時点)による。