
リテールメディア広告とは、店舗を持つ小売企業(店舗事業者)およびEC専業の小売企業(EC事業者)が提供する各種オンラインメディア広告の総称であり、店舗のデジタルサイネージ広告も含む。アプリやECサイトなどのオウンドメディアにおける商品告知広告・クーポン・メールマガジンのほか、匿名化された顧客データを活用したターゲティング配信など、広告商品の企画・運営に小売企業が関与する広告プロモーションを指す。複数の小売企業の購買データを取りまとめて配信するリテールメディアネットワーク事業者への広告支出も含まれる。配信面は、自社サイト・アプリ上の「オンサイト」、外部メディアへの「オフサイト」、店頭サイネージなどの「インストア」に大別される。
成長を支えているのは、小売事業者が保有する購買データの価値である。リテールメディア広告は、購買データに基づいた広告効果が可視化できる点を広告主から高く評価されており、大手広告主では、従来の営業部門による販促費にとどまらず、広告宣伝・マーケティング部門による広告宣伝費からの投資が本格化しつつある。現場の販促費から企業の基幹的なマーケティング予算へと出稿の位置づけが移行していることが、市場拡大の構造的な要因である。
リテールメディア広告市場規模推計・予測
2023年~2029年
CARTA HOLDINGSとデジタルインファクトによる共同調査では、2025年の国内リテールメディア広告市場は前年比129%の6,066億円となり、2029年には2025年比約2.2倍の1兆3,174億円規模に拡大すると予測している。
その内訳は、EC事業者が5,236億円、店舗事業者が830億円である。EC事業者は、生活者のECサイト利用額が拡大を続けるなか、認知・獲得から購買までのフルファネルをカバーする広告商品を拡充し、大手広告主の投資を促進している。
リテールメディア広告市場規模推計・予測(店舗事業者)
2023年~2029年
新たな成長領域の店舗事業者は、2025年の830億円の内訳がデジタル広告620億円・デジタルサイネージ210億円で、2029年には2025年比約2.3倍の1,939億円に達すると予測される。デジタル広告はアプリ向けクーポン広告やECサイトの検索連動型広告を中心に需要が拡大し、デジタルサイネージは高い訴求力による認知効果が見直されている。
最大の動きは、店舗事業者が広告事業者と合弁会社を設立し、広告配信基盤と販路を整えてきたことである。大手企業を中心にリテールメディア事業部門の組織化が進み、広告事業者との提携により配信基盤の構築や運用体制の整備が進展している。合弁会社の設立は時系列で次のように進んできた。
口火を切ったのはファミリーマートで、2020年10月27日に伊藤忠商事・ファミリーマート・NTTドコモ・サイバーエージェントの合弁会社「データ・ワン」が設立された。同社はファミリーマートの購買データを活用したデジタル広告サービスを提供し、2021年9月24日にはサイネージ配信を担う「ゲート・ワン」も設立された。
続いて、ドン・キホーテを展開するPPIHと博報堂が、2023年12月22日に新会社「pHmedia」を設立した。PPIHの国内・海外700店超の買い場網と約1,300万ユーザーの「majicaアプリ」の購買データに、博報堂のクリエイティブ・メディア知見を融合させ、テレビから店頭までを連動させたフルファネル型のソリューションを展開している。
直近では、セブン-イレブン、電通、サイバーエージェントの3社が合弁会社「セブン-イレブン・アドコネクト」の設立に合意した(2026年6月11日発表、2026年9月1日事業開始)。約22,000店舗と約2,800万人のアプリ会員基盤を主軸に、電通の統合プランニングとクリエイティビティ、サイバーエージェントのAIを活用した広告制作・プラットフォーム開発力を掛け合わせ、広告と店舗での販売を一気通貫でつなげることを目指す。
最大の課題は、広告主のマーケティング予算をいかに継続的に獲得するかである。広告会社などを通じて広告宣伝・マーケティング部門からの予算獲得を目指す動きが進み、リテールメディアネットワークへの参画によって、小売単体では獲得が難しかった広告主予算の取り込みを図る動きがある。裏を返せば、小売単体では十分な予算を取り込みにくいことが課題である。
加えて、効果測定の整備も未成熟である。ターゲティング精度や広告効果測定手法の整備が十分でない点、広告主や小売事業者内の部門構造などが投資判断の分かれ目となっている。事業者間で取り組み姿勢や成長スピードに差が見られる点も、市場全体の底上げに向けた課題である。
販促費から広告宣伝費へと予算の性質が移行するなかで、データ基盤・配信基盤・効果測定の整備を進めた事業者が成長を主導する。大手EC事業者への高い需要が継続し、店舗事業者の広告への需要も拡大することで、市場は高い成長を持続すると見込まれる。合弁会社を通じた基盤整備と、業界全体での効果測定の標準化が、今後4年で市場が1兆円超へ拡大するかどうかの鍵となる。