
■市場の定義
金融情報サービスとは、金融に関する最新の市場動向やニュースを提供するサービスを指す。一方、金融教育サービスとは、金融に関する知識やスキルを長期的に身に着けていくことを目的に提供されるサービスである。本市場は、これらの制作および消費者・企業への提供に際して、企業や個人が対価として受け取る金額を対象とする。具体的には、サービス提供にあたり提供者が受け取る広告収入や課金収入、コンテンツ制作にあたり制作者が受け取る費用を市場に含む。ただし、金融投資商品や生命保険商品の売買で生じる代理店への契約手数料等は市場規模に含まない。
■市場の背景
日本における金融情報は、これまで主に新聞・雑誌・ラジオ・テレビといったマスメディアを通じ、株価や為替の動向などのニュースとして投資家層に向けて発信されてきた。
2014年には、政府が家計の安定的な資産形成と成長資金の供給拡大を目的に、少額投資非課税制度(NISA)を導入した。その後も、2018年の「つみたてNISA」、2024年の制度改正による年間投資枠の拡大など、制度は段階的に拡充されてきた。これらの後押しにより、NISA口座数は2025年6月末時点で約2,696万口座に達し、18歳以上人口の約4人に1人が保有する身近な仕組みへと定着している。政府は資産所得倍増プランにおいて2027年末までに口座数3,400万口座を掲げており、普及拡大に向けた取り組みは今後も続く見通しである。
さらに、世界経済の先行きは一層不透明さを増しており、市場の変動リスクも高まっている。政策の不確実性に加え、各国政府の発言も市場に大きな影響を及ぼし、株価の乱高下を招く要因となっている。その影響は日本の投資家にも及んでおり、経済リスクへの備えとして、投資判断を他人任せにせず自ら学び備える「金融リテラシー」の重要性が、社会全体で改めて認識されつつある。こうした流れを受け、官民一体で中立・公正に金融経済教育を推進する認可法人として、2024年4月5日に金融経済教育推進機構(J-FLEC)が設立され、同年8月から本格的に稼働している。投資家の知識習得ニーズに応える形で、インターネットを通じた金融情報の提供や金融教育コンテンツの拡充も進んでいる。
■市場規模

株式会社ABCash Technologiesと株式会社デジタルインファクトとの共同調査によると、2024年における国内の金融情報サービス市場は2,250億円、金融教育サービス市場は1,065億円であり、両者を合わせた市場規模は3,315億円と推計される。投資が「一部の人のもの」から「誰もが学び活用するもの」へと広がる中、本市場は着実な拡大を遂げている。
将来予測では、2030年に金融情報サービス市場が2,389億円(2024年比 約1.06倍)、金融教育サービス市場が1,663億円(同 約1.56倍)に達し、両市場を合算した規模は4,052億円に達する見通しである。特に金融教育サービス市場の成長率が高く、市場拡大の牽引役として期待される。
■直近のトレンド
情報提供のチャネルは、従来のマスメディアにとどまらず多様化が進んでいる。金融機関によるオンラインセミナーやリアルイベントの開催、アプリを活用した金融教育サービスの展開など、多様なチャネルでの情報提供が活発化している。特に金融教育領域では、体系的なカリキュラムを提供する有料Web・アプリサービス、YouTubeなどを通じた動画コンテンツ、新聞・雑誌などの従来型メディアによる情報発信といった、複数チャネルでの多角的なサービス提供が拡大している。
なかでもYouTubeチャンネルで提供される金融コンテンツの充実は著しい。資産運用やNISA、節税、家計管理といったテーマを初心者にも分かりやすく解説するチャンネルが相次いで登場し、登録者数が数十万人規模に達する人気チャンネルも生まれるなど、視聴者からの支持を広げている。専門書やセミナーに比べて学習コストの壁が低い点が支持の背景にあり、投資情報の収集手段としても、インターネットでの検索に次いで動画視聴の活用が広がっている。投資をしている人のうち3割超がYouTube等の動画でお金について学んでおり、動画コンテンツの重要性が高まっている。
公的な担い手の活動も本格化している。J-FLECは、認定アドバイザーによる学校・職場への講師派遣、無料の個別相談、オンライン講座といった事業を展開している。投資のすそ野も着実に広がっており、2025年の調査では、生活費を超える金額の資産運用を行った経験を持つ人は全体で29.1%、投資信託の購入経験者は34.8%に達し、いずれも30歳代以下を中心に大きく増加している。また、2022年4月からの高校学習指導要領の改訂により家庭科等で金融教育の内容が拡充されたことも、教育サービスへの需要を社会的に押し上げる動きとなっている。
■課題
市場の裾野が広がる一方で、利用者の知識水準は追いついていない。2025年の金融リテラシー調査では、正誤問題の正答率は全体で53.8%と、3年前の前回調査から1.9ポイント低下した。特に若年層の正答率は低く、投資経験者が増えているにもかかわらず、投資信託購入者の約3割が商品性を十分に理解していなかったと回答している。SNSや生成AIの普及により投資詐欺をはじめとする金融犯罪の手口が高度化・巧妙化しており、信頼性の高い情報と、長期的に知識を体系化できる教育サービスへの需要は一層高まると見込まれる。さらに、NISAの口座開設率には東京都の31.9%から青森県の15.0%まで2倍程度の地域間格差があり、サービス提供にあたっては情報アクセス機会の偏在も論点となる。サービス提供者には、多様化するチャネルのなかで質を担保し、利用者が自らのニーズに合ったサービスを選択できる環境を整えることが求められる。
■今後
今後も国民全体の投資活動が拡大を続ける中で、これらを支える金融情報・金融教育サービスの需要は持続的な成長が見込まれる。金融情報サービス市場は投資人口の増加に伴い堅調な拡大が期待され、金融教育サービス市場についても、高校での金融教育の拡充や、教育を受けた層ほど金融リテラシーが高いという調査結果を背景とした官民連携の強化が後押しとなり、高水準の成長が続くと見られる。制度面でも、こども支援を念頭に置いたつみたて投資枠の対象年齢見直しなど、NISAをさらに充実させる税制改正要望が示されており、投資人口の一段の拡大が市場の追い風となる。複数チャネルを通じた多角的なサービス提供も継続的に拡大し、2030年に向けて市場全体の着実な成長が続くものと考えられる。

株式会社デジタルインファクト / 代表取締役社長
慶応義塾大学経済学部卒。外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。