
ノンエンデミック広告とは、ECサイトやアプリが、そこでは売っていない商品・サービスの広告を掲載する手法である。リテールメディア広告の一種にあたる。たとえば、ファッションや航空券・チケット・デリバリーを扱うサイト上に、動画配信サービスや保険の広告が表示される事例が該当する。
これに対し、サイトが扱う商品に関連した広告(靴のECに靴の広告など)は「エンデミック広告」と呼ばれ、両者は対の関係にある。本サマリーが用いるRokt/デジタルインファクト共同調査では、広告主がノンエンデミック広告に支払う年間の総額を市場規模としている。
ノンエンデミック広告の広がりは、ユーザー・広告主・媒体社(EC事業者)・テクノロジーという四つの側面の変化が重なって生まれている。
・ユーザーの行動変化
ECサイトやアプリでの買い物が生活に定着し、「探す・比べる・買う」という一連の行動がオンライン上で完結するようになった。ユーザーは購買の場に長く滞在するようになり、そこには関心や購買履歴といった濃い行動データが蓄積されていく。一方で、ユーザーは自分に関係のない広告には敏感であり、興味に合わない広告が続けば離脱してしまう。逆に、自分に関連する広告であれば受け入れやすい。この「関連性(レレバンシー)を求める姿勢」が、ノンエンデミック広告のあり方を左右する前提となっている。
・広告主側の需要動向
サードパーティCookieの規制強化により、従来型のターゲティング広告は精度を保ちにくくなっている。そこで広告主は、実際の購買データを持つリテールメディアを、確度の高い配信先として評価し始めた。これまでECに出店してこなかった動画配信サービスや保険といった非EC系の広告主にとっても、購買の瞬間に近い場所へ広告を届けられるノンエンデミック広告は魅力的な選択肢となる。認知から購買までを一気通貫で狙える配信先を求める動きが、需要を押し上げている。
・媒体社(EC事業者)側の動向
EC事業者にとって、広告事業は本業のECよりも利益率が高い有力な収益源とされる。一般に、ECの平均利益率は5〜15%程度、広告収益の利益率は50〜90%と言われており、原価のかかりにくい広告は、規模が小さくても収益への貢献が大きい。人口減少や物価上昇が進むなか、値上げに頼らず収益を確保する手段として、広告枠の開放による付帯収益化への関心が高まっている。すでに大手ECモールは広告事業を拡大させており、これに続く形で、ファッションや航空券・チケット・デリバリーなどを扱う独立系EC事業者も、自社の広告枠をノンエンデミック広告に開放し始めている。
・テクノロジーの動向
リテールメディアの機能が進化し、これまで取り込めなかった広告需要にも対応できるようになったことが、市場の拡大を支えている。特に、購買データとAIを組み合わせ、ユーザー一人ひとりに関連性の高い広告を購買の瞬間に届ける技術が実用化されつつある。こうした技術は、ユーザー体験を損なわずに広告を配信することを可能にし、ノンエンデミック広告の「関連性の壁」を越えるための基盤となっている。

2024年の国内ノンエンデミック広告市場は541億円(前年比128%)の見通しである。2028年には約3倍の1,693億円に達すると予測されており、年平均では約33%の成長にあたる。
特に、ファッション・航空券・チケット・デリバリーなどを扱う独立系EC事業者の市場は、まだ始まったばかりで、毎年約3倍のペースで拡大すると見込まれている。ただし参入企業がまだ少ないため、一部の企業の動き次第で数字が大きく変わりやすい点には注意が必要である。
2026年時点のトレンドは、次の四つに整理できる。なお、以下で示す海外・国内の市場データは、米eMarketerやCARTA HOLDINGS/デジタルインファクトなど、外部で公表されている調査から引用したものである。
第一に、米国が先行する構図が一段と鮮明になっている。eMarketerによれば、リテールメディア広告費は2026年にAmazonとWalmartの2社で約9割を占める見込みとされ、エンデミック(自社が扱う商品)ブランドの出稿が飽和に近づくなかで、各社が非エンデミック広告に活路を求めている。実際にAmazonは非エンデミック広告の提供を広げ、動画配信・金融・旅行など、Amazonで商品を売っていないブランドでも購買層の重なりを根拠に出稿できるようになった。Walmart ConnectやHome Depotも、自動車・金融・通信・旅行といった領域に広告枠を開放しているとされ、「商品を扱っているか」よりも「オーディエンスが合うか」を重視する流れが定着しつつある。
第二に、先行カテゴリとして金融・旅行・メディアが確立してきた。eMarketerの公表データでは、なかでも金融系メディアネットワークの広告費が2025年に前年比約8割増と大きく伸びたとされる。購買データを起点に、認知から購買までを一気通貫でねらうフルファネルの活用が広がっており、ノンエンデミック広告を「購入後のお礼」として割引や無料トライアルを提供する、リワード型の使い方も見られる。
第三に、日本でも普及期に入り、実例が増えている。CARTA HOLDINGS/デジタルインファクトの共同調査によれば、国内のリテールメディア広告市場は2025年に6,066億円(前年比129%)まで拡大した。コンビニのサイネージでの映画広告や、ドラッグストアで赤ちゃん用品を買うユーザーへのクルマ・住宅の訴求など、購買データを使ったノンエンデミック広告の配信も報じられている。「2025年以降に日本でも広がる」という当初の見立ては、実際に動き出す段階へと進んでいる。
第四に、実務上の論点はレレバンシー(関連性)と効果測定に移りつつある。eMarketerは、ユーザー体験を損なわないために非エンデミック広告をオフサイトや購入後のページに絞って配信する運用や、複数の配信面をまたぐ効果測定の難しさを、共通の課題として指摘している。
最大の課題は、ユーザー体験を損なわないことである。サイトで売っていない商品の広告をむやみに出すと、ユーザーが離れてしまう恐れがある。そのため、ユーザーの興味に合った関連性(レレバンシー)の高い広告を出せるかどうかが、成否を分ける。
また、市場はまだ黎明期で、参入企業も限られる。ノンエンデミック広告という言葉自体の認知や、エンデミック広告との線引きについても事業者の見方は定まっていない。広告の質を保ちながら、市場を健全に広げていくことが共通の課題となる。
ノンエンデミック広告は、2024年比で、2028年に向けて約3倍に拡大する見通しの、成長が期待される領域である。EC事業者にとっては本業を支える新たな収益源となり、広告主にとっては購買データを活かせる新たな配信先となる。
今後は、ユーザーに受け入れられる関連性の高い広告をいかに配信できるかが鍵となる。市場が立ち上がりの段階にある今、各社の取り組み次第で、日本でも大きく伸びる可能性を秘めている。
出典:Rokt/デジタルインファクト共同調査「ノンエンデミック広告がリテールメディアの新時代を切り拓く」(2024年12月発表)。直近のトレンドで示した市場データは、国内外の公表調査(CARTA HOLDINGS/デジタルインファクト共同調査、米eMarketer 等、2026年時点)から引用している。