
デジタルサイネージ広告とは、公共機関、商業施設、屋外などに設置されたデジタルで稼働するサイネージ上に表示される広告を指す。サイネージの設置者および関係者を除く第三者が、広告宣伝活動などを目的に費用を支払うことで利用できるものを対象とする。市場規模は、広告主によるデジタルサイネージ広告媒体への年間支出総額であり、商取引上、媒体費と制作費が不可分とされる一部を除き、媒体費のみを対象とする。
本サマリーが依拠するLIVE BOARD/デジタルインファクトの共同調査では、デジタルサイネージ広告を「交通」「商業施設・店舗」「屋外」「その他」の四つに分類している。交通には鉄道(車両・駅)、タクシー、空港、航空機、バスなどが含まれる。商業施設・店舗にはスーパーマーケット、コンビニエンスストア、ドラッグストア、美容院、飲食店などが、屋外には大型ビジョンやアミューズメント施設などが含まれる。その他は、公共施設、マンション、ホテル、エレベーター、映画館(シネアド)などである。
デジタルサイネージ広告市場の成長は、ユーザー・広告主・媒体社・テクノロジーの四つの変化が重なって生まれている。
・ユーザーの行動変化
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出および移動の規制という逆風を乗り越え、街中や店内といったリアルな時間・場所での接触機会が回復している。加えて、訪日外国人旅行者数が急増し、空港では国際線のデジタルサイネージで満稿が続いてきた。国内線で周遊する訪日外国人も増えており、地方空港でもインバウンドによる一定の効果が表れている。
・広告主側の需要動向
街中や店内などリアルな場で視聴者に接触し、臨場感のあるクリエイティブを届けられる点への需要が高まっている。渋谷・原宿・新宿といった人気エリアのビルや駅構内に設置されたサイネージへの需要は引き続き強い。また、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の開催に合わせて大阪・関西エリアの整備が加速し、プロモーションを強化したい広告主の需要に応える形となった。
・媒体社側の動向
リテールメディア領域では、先行して設置が進んでいた総合スーパー(GMS)、スーパーマーケット(SM)、ドラッグストアに加え、大手コンビニエンスストアチェーンが全国10,000店舗以上にサイネージを導入するなど、広告配信面数の拡大が一気に進んだ。異なる事業者間の連携やデータ活用の検討・実証も進んでいる。また、大手鉄道事業者が、データドリブンな広告運用を可能とするデジタルOOH広告のマーケットプレイスを新たに立ち上げている。
・テクノロジーの動向
プログラマティック広告取引への関心が引き続き高まっている。DSP/SSPとの接続が増えることで、海外の広告代理店やウェブ広告代理店といった新たな販路が拡大し、サイネージの稼働率が上がるものと見られる。効果測定の面でも、2025年9月に業界横断組織「一般社団法人 日本OOHメジャメント協会(JOAA)」が設立され、業界共通指標の開発・提供に向けた環境整備が進んでいる。

LIVE BOARD/デジタルインファクトの共同調査(CARTA HOLDINGS監修)によれば、2025年の国内デジタルサイネージ広告市場規模は1,110億円、前年比116%の見通しである。
本調査は2019年よりCCI(サイバー・コミュニケーションズ)が開始し、その後CARTA HOLDINGSへ、さらにLIVE BOARDへと調査主体が引き継がれてきた。調査手法や調査内容は変更されておらず、過去の推計値も引き継がれているため、市場規模の推移を連続してたどることができる。
・コロナ禍による急減
2019年の市場規模は749億円であった。しかし2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により状況は一変する。春以降の外出自粛によって、交通機関や屋外施設、商業施設におけるサイネージと生活者の接触数が大きく減少し、広告主の出稿も抑制された。同年の市場規模は516億円、前年比68%と、実に3割超の急減となった。とりわけ主力の交通機関は、2020年3月以降の利用者数の大幅な減少を受け、316億円まで落ち込んでいる。
・リバウンドから成長への転換
2021年以降、市場は回復に転じた。2021年は594億円(前年比114%)、2022年は690億円(同119%)、2023年は801億円(同119%)と、二桁成長を続けている。コロナ前の2019年(749億円)の水準を超えたのは2023年であり、落ち込みからの回復には3年を要した計算になる。この時点で、市場関係者の間には「コロナ禍を脱却し、再び成長期に入った」との共通認識が生まれつつあった。2020年から2025年までの5年間では年平均約17%の成長を維持しており、市場規模は2020年の約2.15倍に拡大している。
・リバウンドを超えた構造転換
重要なのは、この成長がコロナ禍からの単純な揺り戻しにとどまらない点である。セグメント別に2020年と2025年を比べると、市場の構造そのものが変化している。主力の交通は316億円から522億円へと1.65倍に伸びたが、構成比は61.2%から47.0%へと14ポイント以上低下した。一方、商業施設・店舗は77億円から260億円へと3.38倍に、屋外は62億円から192億円へと3.10倍に拡大し、構成比をそれぞれ14.9%→23.4%、12.0%→17.3%へと高めている。回復が最も早いと見られていた交通に依存する市場から、リテールメディアと屋外ビジョンが牽引する市場へと、成長の担い手が入れ替わったのである。
この変化は、各セグメントの成熟度の差を反映している。かつて市場を牽引してきた鉄道やタクシーの車両内広告は、首都圏の主要な場所への設置がほぼ完了し、デジタルサイネージの標準装備化が実現した段階にある。これに対し、商業施設・店舗は大手コンビニエンスストアチェーンの大規模導入をはじめ、配信面の拡大余地が大きく残されている。市場全体の伸び率は119%から116%へと緩やかになりつつあるが、これは回復需要が一巡し、構造的な成長へと移行したことを示すものと捉えられる。
第一に、リテールメディアとしての配信面が急拡大している。大手コンビニエンスストアチェーンによる全国10,000店舗以上への導入が、その象徴である。商業施設・店舗では、これまで店頭にある商品の販促を目的とした出稿が中心だったが、大規模な端末設置が進んだことで、車など店舗に配荷のない商品の出稿もなされ、認知メディアとしての活用が一部で進んでいる。
第二に、プログラマティック取引の広がりである。大手鉄道事業者によるマーケットプレイスの立ち上げなど、データドリブンな広告運用への関心が高まっている。
第三に、効果測定の共通化に向けた動きである。2025年9月に設立されたJOAAは、OOH広告の価値を可視化する業界共通指標の開発・提供を通じて、広告主が安心して活用できる環境の整備を目的としている。海外市場ではメジャメント指標の導入による効果の可視化が市場成長を後押ししており、日本でも同様の効果を期待する声が挙がっている。
第四に、媒体ごとの商品開発の進展である。首都圏での媒体取り付けがほぼ完了したとされるタクシー広告では、タブレットで放映する独自の番組コンテンツの開発や、広告主をスポンサーとした番組タイアップ企画が進む。駅施設では、インパクトのある表現やイマーシブな空間演出に長けた媒体への需要が高まっている。
第一の課題は、データ連携と効果測定である。商業施設・店舗では端末の設置が進む一方、データ連携や活用、効果測定が引き続きの課題として残されており、さまざまな事業者が参入している状況にある。共通指標の整備は始まったばかりであり、広告主が安心して投資できる環境づくりはこれからの段階にある。
第二に、広告商品の企画・開発力である。屋外ビジョンでは、SNSでの話題化など数値だけでは測れないインパクトのある表現や媒体特性が高く評価されてきた。しかし一方で、人気エリアのサイネージであっても必ずしも高い評価を得られるわけではないとの声も挙がっており、広告主のニーズを満たす広告商品の企画・開発がより求められる市場環境となっている。
第三に、投資対象エリアの選別である。駅施設では端末の設置や商品開発が継続して進むと見られるものの、今後は高い広告需要が見込めるエリアに絞ったうえでの投資が進められていくものと見られる。設置面の拡大から、収益性を意識した選別の段階へと移りつつある。
市場関係者の間では、デジタルサイネージ広告市場全体が今後も安定成長を続けるという共通認識が生まれている。同調査では、2030年の市場規模を2025年の約1.48倍にあたる1,647億円と予測している。年平均に換算すると約8%の成長であり、コロナ禍からの回復局面でみられた年率17%前後の伸びからは緩やかになる。回復需要という追い風がなくなるなかで、実力としての成長がどこまで続くかが問われる局面に入るといえる。セグメント別では、屋外が345億円に達する見込みであり、渋谷や原宿といった人気地区の駅前大型ビジョンの好調と、関西エリアでの需要拡大が牽引役となる。
成長を後押しする要因として、メジャメントの導入による新たな広告指標の確立が挙げられる。これにより、海外の広告代理店やウェブ広告代理店を通じて、これまでデジタルサイネージ広告に出稿していなかった新たな広告主の増加が見込まれる。また、業界共通指標が導入されたデジタルOOHは、視聴率やクリック率といった比較可能な指標で取引が進められてきたテレビ広告やデジタル広告のプロモーションに組み込みやすくなり、より多くの施策で活用されていくことが期待されている。
商業施設・店舗においても、特定商品の購入を対象とした販促費だけでなく、マーケティング費や広告宣伝費といった新たな広告主予算からの投資が進むことに、媒体事業者から大きな期待が寄せられている。
出典:LIVE BOARD/デジタルインファクト共同調査(株式会社CARTA HOLDINGS監修)「デジタルサイネージ広告市場調査」(2025年10月21日発表、調査時期:2025年7月〜9月)。過年度の推計値は、同一系列の調査であるCCI(サイバー・コミュニケーションズ)/デジタルインファクト共同調査(2019年・2020年)およびCARTA HOLDINGS/デジタルインファクト共同調査(2021年〜2023年)による。調査手法・調査内容は変更されておらず、過去の推計値も引き継がれている。

株式会社デジタルインファクト / 代表取締役社長
慶応義塾大学経済学部卒。外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。