
モビリティ広告とは、トラックの車体を広告媒体(アドトラック)として活用する広告手法を指す。本市場規模は、広告主が国内のモビリティ広告に出稿する年間総支出額を「国内モビリティ広告市場規模」と定義して推計されている。媒体としては、都市部での高い視認性、ターゲットエリアを自在に移動できる到達力、手頃な出稿価格を強みとし、人通りの多い繁華街を周回することで、直前の接触が購買意欲を喚起する「リーセンシー効果」を狙える点が特徴である。
長年、特定の広告主層から支持を集めてきた媒体であるが、急速な普及の一方で課題も顕在化した。背景には、都内の繁華街で、トラックの荷台等に広告を表示した都外ナンバーの広告宣伝車が、派手な色遣いや過度な発光を伴って多数走行し、景観や交通環境への影響が問題視されていた事情がある。従来は都外ナンバー車両が東京都屋外広告物条例の対象外という「抜け穴」となっており、都内を走るアドトラックのほぼ全てが都外ナンバーといわれていた。これを受けて東京都は規制に動き、2024年6月30日以降、都外ナンバーの広告宣伝車にも都条例の規制が適用されることとなった。デザイン自主審査、屋外広告物許可申請、許可票の貼付などが必要になり、出稿のハードルが大きく上がったことが、市場の転換点となっている。

最新の推計は、ohpner株式会社が株式会社デジタルインファクトと共同で実施した市場調査による。規制対応の影響で、2024年から2025年にかけて需要が減少し、2025年の市場規模は前年比60%の15億円となる見込みである。しかしその後は回復・拡大に転じ、2026年には市場規模23億円、前年比153.3%に達すると予測されている。中長期では成長が加速し、2030年のモビリティ広告市場は75億円規模に達し、2025年比で約5倍に成長すると見込まれている。
最大の潮流は、新たな広告主層の参入による裾野の拡大である。韓国コスメ、外資系ブランド、美容医療、BtoB分野などが新たにモビリティ広告の活用を開始し、SNSとの連携などオンラインとオフラインを組み合わせた施策も定着している。加えて、上場企業やグローバルIP企業による出稿も見られ、信頼性と話題性の双方で市場全体の認知が高まっているとされ、案件規模や出稿期間の多様化が進んでいる。規制を経て媒体が「健全化」したことが、結果として参入障壁を下げ、これまで敬遠していた層を呼び込む方向に作用している点が特徴的である。
第一の課題は、規制対応に伴う供給制約とコスト増である。デザイン審査や許可申請の厳格化は、出稿までのリードタイムや不確実性を高める。第二に、効果測定の標準化が未成熟である点が挙げられる。デジタル広告では当たり前の「計測可能性」をオフライン媒体でどこまで実装できるかが、新規広告主の継続出稿を左右する。第三に、ブランドセーフティの確保である。過去に華美なデザインや特定業種の出稿が苦情を招いた経緯があり、媒体としての信頼性を担保する仕組みづくりが不可欠である。これらは、計測指標の標準化、ブランドセーフティの確立、走行ルートの最適化といった業界共通の基盤整備として、今後の重点テーマに位置づけられている。
総じて、本市場は2024〜2025年の規制ショックという谷を経て、2026年以降は回復・拡大基調へ転じるシナリオが描かれている。鍵を握るのは、効果測定の定量化とブランドセーフティの担保である。基盤整備が進むことで、需要拡大・効果測定の普及・供給制約の緩和が同時に進行し、市場の健全化とともに持続的な拡大が期待されるとされている。プレイヤー側でも、ohpnerがメディア開発・運用設計・クリエイティブ最適化を一体で強化し、業界共通の基盤づくりに取り組む方針を示しており、こうした標準化の動きが、2030年75億円という成長予測の実現性を高める要素となる。

株式会社デジタルインファクト / 代表取締役社長
慶応義塾大学経済学部卒。外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。